「人生フルーツ」という映画を何年か前に観ました。
建築家の津端修一さんと奥さん(90歳と87歳)のつつましやかな暮らしを淡々と描いているドキュメンタリーです。
二人が住むのはアントニン・レーモンドの自邸に倣った小さな木造住宅の平屋。そこには畑があり雑木林があり、そして風がある。
畑で採れた野菜や果物をそのまま家に持ってきて、おいしそうな料理をてきぱきと作っています。
一部屋のなかに台所とダイニングテーブルとベッドとソファがあります。
仕切りがないのです。
ここで(料理を)作って、ここで食べて、ここでくつろぎ、ここで寝る。なんてシンプルな暮らし方なんだろうと、うらやましく思います。
もしかしたら、僕たちは暮らしを「機能」として捉えすぎているんじゃないか、と気付くのです。
楽(たの)しい住宅は作りたいけど、楽(らく)な住宅は作りたくない。字は一緒だけど意味はまるっきり違う。
こんなことを考えながら、久しぶりにアントニン・レーモンドの記事が載った雑誌を引っ張り出してみました。文は中村好文さん。
簡素で、直截で、機能的で(便利という意味ではなく)、構造の論理に忠実にしたがうことが美しさにつながるという信念。
贅沢な空間は、簡素でシンプルな構造から生まます。人生をフルーツのように楽しめる人たちに向けた住宅を作り続けようと思いました。